新書について
『リエンジニアリング革命』という本がベストセラーになったこともあって、当時の日本では一種のリエンジニアリング.ブームが巻き起こっていた。
T園は、奇妙なタイミングの符号を感じながら、リエンジニアリングに関する情報収集を始めた。
役員や部長クラスの勉強の場として、Jエミニにミーティングを設定するよう依頼した。
1995年5月中旬、JエミニはまずT圃を含む役員および部長レベルを対象にした一対Jエミニ.コンサルティングとの出会い一のヒアリング(Jエミニではフォーカスインタビューと呼んでいる)を実施した。
Jエミニからも、日本支社代表のT田宏之をはじめとして外国人を含む幹部スタッフが集結した。
インタビューのテーマは、業界動向や会社の現状分析が中心で、くつろいだ雰囲気のなかでざっくばらんな意見交換が行われる。
「来年には生損保の乗り入れが始まりますが、どう思われますか?」「う−ん、かなり厳しくなるだろうね」「どんな手を打つべきでしょうか?」「実はね、うちの部門ではこんな対策を練っているのだ」「ああ、それならこんなアプローチがありますよ」いわば、情報交換を兼ねたお見合いのようなものだ。
その1週間後、第一回目のミーティングが開催された。
Jエミニではこうしたミーティングを「ワークショップ」と呼び、企業との共同作業の重要な入り口として位置づけている。
ここでは、フォーカスインタビューの結果をもとにJエミニ側の問題意識を参加者にぶつ「生損保兼営はすぐに売上げの減少につながると予測されます。
私たちは、ここで会社が思い切って変わる必要があると思いますが、役員としてどう思われますか?」「そりやあ、やっぱり変わらなきゃいけないだろうね」けていく。
コンサルティング会社に対してこんな批判の声が聞かれるのは、こうしたやり方のせいだ。
実際、有名なコンサルティング会社が手がけたプロジェクトがうまくいかず、経営改革どころか組織がガタガタになってしまったケースも多い。
JエミニのT田代表によると、こうした無責任な同業者のやり方のせいで、経営コンサルタントに対する警戒心は驚くほどに強いという。
「知識をひけらかす嫌なヤシ」「外から引っかき回しにきた迷惑な連中」「そのための手段がリエンジニアリングなのです」通常のコンサルティング会社は、企業のトップから依頼を受けると、すべてのデータの提出を求め、問題解決までの期限を設ける。
各種データを調べ上げ、分析して「はい、御社にとってベストの解決法です」とプロジェクト提案書を提出したり、ERP(企業統合管理システム)パッケージなどのシールを導入したりする。
関わりはそれまでで、その先の実行や運用については基本的に責任をもたない。
「経営改革がうまくいけば自社の功績にし、うまくいかなければ導入企業のせいにして逃げてしまう」といった受け止め方がほとんどで、敵憶心を明らさまにする社員も多い。
そうした点を踏まえて、Jエミニでは次のような改革理念を謡っている。
つまり、企業改革は経営陣など特定の人間だけがやる気になっても、社員全体の意識がその方向に向かないかぎり、結果は出ないという考え方である。
「エモーションとポリティクス」というキーワードを掲げ、社員個々の動機づけと人間関係を重視したコンサルティング活動を展開している。
平たくいえば、1人ひとりの社員に「変わろう」という強い意欲をもってもらい、社内での立場や関係性に配慮した改革運動を進めていこうということである。
Jエミニが無償の相談段階からワークショップなどを実施し、役員や社員の巻き込みに力を注ぐのもこのためである。
なお、JエミニもAリコも外資系なので、社内用語にも当たり前のように横文字が使われている。
そのため、両者の関係を基軸にしたこの本にも、横文字が頻発せざるを得ない。
できるだけ平易な記述を心がけたいが、カタカナの多さによる読みづらさについては、どうかご容赦願いたい。
第一回目のワークショップでは、この時点における経営改革やリエンジニアリングの意味合いについて議論がなされた。
また、リエンジニアリングのイロハや最新の情報通信技術T田たちは、自社のPR活動よりも、「経営改革とは何か」「リエンジとは何か」を理解してもらうことのほうにより多くの力を注いだという。
リエンジに対する一般的な認識が低かった当時の状況では、そうすることが最大の効果を生むと確信していたからである。
翌月に入って、AリコからJエミニに連絡が入った。
「経営改革やリエンジの枠組みはよく分かった。
リエンジに関してもう1つしっくりこないものがある。
特に、ITに関して詳しく説明してほしい」6月中旬、IT関係の説明を中心とする第二回目のワークショップが開かれた。
Jエミニは、兄弟会社のキャップ.Jエミニから情報通信技術の専門家を呼び寄せ、コールセンターやワークフローシステムなどに関する最先端の情報を提供した。
さらに、二週間後には第2一回目のワークショップを開き、マネジャークラスも含めたAリコ社員に対して、より具体的なプレゼンテーションを実施した。
「生損保相互乗り入れ」の直撃を受ける代理店向け営業部門(Aリコでは支社マーケティングラインと呼んでいる)の強化を図り、ここを軸に全社的なコスト競争力を引き上げてこの間、Aリコでは他のコンサルティング会社にもリエンジニアリングに関する提案書の提出を依頼していたが、「フェアな競争を歓迎する」Jエミニはこの競合を受け入れていた。
第三回目のワークショップが開催された時点で、AリコはJエミニの提案書に最高の評価を下していたのである。
Jエミニが提出した提案書は、彼らが「フェーズ0」と呼ぶ調査.分析段階のもので、企業改革の方向性とあるべき姿を明確にすることに主眼を置いていた。
具体的には、「改革をやった場合にはこうなる」「やらなかった場合にはこうなる」という青写真を示し、クライアントにとって最適な改革プロジェクトの形を提案するわけだ。
フォーカスインタビューやワークショップを通じてJエミニが提示したあるべき姿の概要は、以下のようなものだった。
具体的には、顧客や代理店や社員の問い合わせに応えて書類などを発送するコールセンター(電話受付センター)の構築、携帯端末による契約データ送信の導入などを通じて、支社マーケティングライン営業スタッフの事務作業を軽減する。
契約事務処理を担当する本社顧客サービス本部のワークフローを再構築し、処理の迅速化を通じて営業活動を支援する。
これらのバックアップを通じて得られる余力を、本来の意味での「代理店向け企画提案型営業」に振り向け、収益およびコスト競争力を高める。
将来的には、コールセンターやワークフローシステムの成果を全社的に広げ、トータルな収益とコスト競争力を高めていく。
こうしたあるべき姿に関する大まかな賛同は得られたが、役員や部長クラスのコンセンサスはなかなか固まらなかった。
最大のネックとなったのは、皮肉にもAリコジャパンの事業が好調だという点だった。
「売上げが伸びているのに、なぜ経営改革をする必要があるのか?」「AリコジャパンはAリコグローバル全体のなかでも大きなシェアを占めている。
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